立ち退き交渉の流れや費用を解説|賃貸オーナーを悩ませる立ち退き交渉②
不動産オーナー様によっては悩みの種となっているであろう「立ち退き請求」。
前回は、立ち退きとはどのようなもので、何故トラブルになりがちなのかを簡単にご説明させていただきました。
今回は、実際の立ち退き請求の際に必要な費用や、立ち退き交渉の流れやポイントについて解説させていただきたいと思います。
目次
実は立ち退き料には相場がない!?
立ち退きの際には法的にも「財産の給付をもって」という前提があると前回お伝えさせていただきました。
では、世の不動産オーナー様たちは、立ち退き料をどのくらい払っているのでしょうか。
実は、立ち退き料には相場らしきものは存在せず、その時々の事情により全く金額が変わってきます。
場合によっては「0円」なんてこともありますし、店舗などの物件であれば、賃借人の利益を大きく阻害する事となりますので「数千万円」になるケースもあります。
とはいえ、相場はなくとも目安となるものはあるのですが、ここで、一つ参考になりそうな相談をご紹介させていただきます。
実際の立ち退き相談事例
(中略)
「立ち退き料」と「引越し費用」「迷惑料」が混在しているケースが目立ち、実際は合計で家賃いくらほどが通例なのかが知りたいです。大家不在で委託した不動産会社と住民との話し合いとなりました。
その時に聞いたのが
・新住居の敷金・礼金・仲介手数料
・引越し業者による引越し費用
ネットで見た皆さんのケースでは、
・引越し料の実費の2倍+迷惑料を足したもの
・家賃半年分+引越し代実費(疑問:引越し代というのは引越し業者費用?引越しにかかる全費用?)
私がこれくらいであれば妥当か思うのは以下の通りです
・新住居の敷金・礼金・仲介手数料
・引越し業者利用費用
・現住居の敷金返還
・迷惑料(6~12ヶ月分?)
あらかじめ調べて「相場というものはない」とは理解しておりますが、今回の話し合いで明らかに低コストにしようとしている意図が見えたため、皆さんの実際に支払われた金額なども聞かせていただけますと幸いです。
参考:Yahoo!知恵袋「不動産 借家 立ち退きに関する通例の立ち退き料?迷惑料とは?」
ここで登場してくる立ち退き料には「管理会社から申し出のあった費用目安」「インターネット上の目安」「自身で考える費用目安」の3つです。
これら3つに共通しているのは、「新居の敷礼金、仲介手数料」「引越し費用」です。
これらの費用は、退去を申し入れるにあたって借主から請求されても妥当なものと考えられます。
では、インターネットの情報と相談者の考える「迷惑料」というものは、どのように考えれば良いのでしょうか。
迷惑料って何のための費用なの?
上記の相談者も提示している「迷惑料」。
実はこれが立ち退き料のトラブルの元になりがちなものなのです。
先にも申し上げましたとおり、立ち退き料には相場というものがありません。
全て交渉ベースで決定していくものですので、最低限、新居へ引っ越すまでの費用くらいは負担するほうが、貸主としての責務を全うしたと自信を持って言えることかもしれません。
しかしながら、迷惑料については少々厄介です。
上記の相談者のように「出ていく代わりに儲けてやろう」という意図が無いにしても、貸主側からしたら「何故?」と思うような迷惑料を請求されるケースは少なくなりません。
しかも、迷惑料は賃料の何か月分という相場もあるわけではありませんので、これこそ交渉による解決を模索していく必要がある費用だと言えるでしょう。
法外な費用を請求されたときの目安にしたい「借家権価格」
さて、迷惑料については特に明確な定めがないばかりか、借家権そのものの効力が強いためになかなか難航しそうな立ち退き請求ですが、悲しい事に法外な迷惑料を請求される借主様がいらっしゃるのも事実です。
一般的な考え方で立ち退き料を決めるとなれば、上記までのように引っ越しに関わる全費用と、家賃数か月分ほどを上乗せすればおおよそ交渉は成立していくかと考えられます。
しかしながら、もし、法外な費用を請求されてしまったとしたら、一体何を目安に交渉していけばよいのでしょうか。
正直なところ、迷惑料を含む立ち退き料には相場ありませんので、こちらがいくら「それは高すぎる!」と主張しても、先方からしてみたら「安定した住環境を奪われるのだから当然だ!」という主張となるわけですから、まさに水掛け論になります。
借家権価格とは
そこで、一つの参考としたいのが「借家権価格」というものです。
正確には、借家権価格は存在しないという専門家の方もいらっしゃるほどで、これは「借地権価格」を元にした、その建物に居住する権利、つまりは「借家権としての価値」を金額に直すようなものと言えます。
では、借地権価格とは何かというと、その土地を貸すことにどのくらいの価値があるのかという、所謂土地の家賃相場のようなものと考えてよいでしょう。
よって、まずは借地権価格の求め方を把握する必要がありますが、それが以下です。
借地権価格の計算式
路線価 × 借地権割合 = 借地権価格
これに対し、借家権価格を求めるに必要は借家権割合を乗じていきますので、まとめると以下のような計算方法となります。
(路線価 × 借地権割合)× 借家権割合 = 借家権価格
地域によって若干、割合は上下するものの、東京埼玉などの首都圏における大体の地域では借地権割合を「60%」としており、借家権割合は「30%」となっています。
つまり、この割合で例として計算するなら以下のようになります。
(路線価1000万円の土地 × 60%)× 30% = 180万円
結局は180万円という金額が算出されましたので「安くはないな…」なんて思われたかもしれませんが、これはあくまで参考としても良さそうなものという範囲で考えましょう。
事実、立ち退きの裁判ではこの借家権価格を参考に審議が進められる事も多いのです。
立ち退き料を交渉するなら誠意をもって!
いかがでしたでしょうか。
自信が借主という立場だった場合に考えうる「引越しに必要な全費用」を立ち退き費用として考えるのも良いでしょうし、法的に無根拠とは言い難い「借家権価格」を元に交渉を進めるのでも良いでしょう。
ただ、交渉方法については次回にまたご説明させていただきますが、借主の住環境を変えてしまうことを考えると、引越し費用全額に対して、「○○料」と銘打って多少の上乗せをしながら交渉を進めることが、交渉を行う中で誠意を伝えられる方法と言えるかもしれません。
いきなり法律の話をされると、まるで攻撃されているように感じられる方もいらっしゃるかもしれないという事は容易に想像できます。
借家権価格はあくまで法外な請求をされた場合の根拠として「出せてもここまで!」という上限を決めるためのものとしておき、まずは借主が負担しなければいけなくなる費用を考えてあげるという事が立ち退き交渉で必要になるでしょう。