賃貸市場で勝ち残るために!今後の不動産経営に必要なこととは?
新聞紙面や経済情報誌などで「賃貸物件の供給過多」に関する記事を読まれたことのある方も多いかと思います。
特に、現在不動産所有者の方であれば、どうしても気になる話題ではないでしょうか。
各報道メディアではこの賃貸物件の需給に関するトピックや、サブリース問題を取り上げてはいるものの、市場では「サラリーマンでも始められる不動産投資!」といった言葉を未だ多く目にします。
そこで、今回は改めて賃貸物件のこれまでの動きと現状、そして今後賃貸物件に対してどうアプローチしていくべきなのかを考えてみたいと思います。
賃貸物件数の現状
そもそも、日本の賃貸物件と呼べる物件の数はどのくらいあるのでしょうか。
国土交通省が公表している指定流通機構に登録された物件数のデータを見てみると、2016年における既存賃貸物件数は「約376万戸」という数字が出ており、公表されているデータで最も古い1998年と比較すると、優に6倍にも膨れ上がっている事が分かります(平成10年度の賃貸物件数は約57万戸)。
以上は事業用、つまりオフィスや倉庫といったものも含まれますが、居住用としての物件数だけで見ても、1998年で約46万5000件に対して2016年が約341万件と7倍ほどになっており、改めて賃貸物件が供給過多であると窺い知ることができる数字となっています。
しかしながら、2016年の賃貸物件登録数が前年比で35万戸ほど減少していることから、一部では既に貸家バブルが落ち着き始めたのではないかという見方もありますが、賃貸物件が供給過多であるという事実が大きく変わったわけではありません。
賃貸物件が増え続けた背景を浚う
1998年からの賃貸物件数の推移からすると、平均すると毎年17~18万戸ずつ物件数が増えてきたという計算になるわけですが、昨今の様々な情報から得られる賃貸物件の増加の理由には「相続税対策」という言葉がよく使われます。
確かに、相続税の基礎控除額の4割減、そして税率区分の引き上げによる実質的な税率アップが決まった2013年から翌年2014年の推移をピックアップしてみると、約377万戸だった物件数が35万戸増加の約412万戸という急激な増加を見せています。
しかしながら、先ほども申し上げたとおり、バブル崩壊後に極端な落ち込みを見せた賃貸物件市場も、データを見る限りでは1998年以降から既に物件数は順調に伸びており、ITバブル崩壊やリーマンショック、東日本大震災といった様々なネガティブなイベントがあったにも関わらず一貫して増え続けてきました。
何故、賃貸物件は増え続けたのでしょうか。
それには様々な憶測がありますが、一つ言える事としてバブル崩壊後の1996年に行われた橋本内閣の金融ビックバンにおける「貯蓄から投資へ」という政策が元になっているのではないかと推測できます。
当時の政府が「貯蓄から投資へ」と言い始めた理由には「直接金融への資金の流れ」を拡大させる目的が主だったため、不動産投資に関しては少々場違いなように思えますが、言葉のニュアンスから少なくとも日本人特有のお金に関する手堅い考えに対して、多少なりの意識的な変化をもたらしたものであると言えるでしょう。
その後も、将来への備えが社会保障だけでは足りない、リスク管理が必要であると広く意識付けるキッカケともなった「消えた年金問題」「保険金不払い問題」なども相まったこともあるでしょう。
更に賃貸物件の建設に拍車をかけたのが、銀行の事業用物件への住宅ローン金利の低下です。
不動産業界が、この住宅ローン金利の低下や社会的意識の変化を見逃すわけもなく、銀行とタッグを組む形で「投資」という側面から賃貸物件の建設を進める動きが活発化する向きもあります。
その動きは未だに落ち着く気配がありませんが、実際これまでに「貯蓄から投資へ」「老後の備えに」「相続税対策に」を謳った投資用マンションの広告を目にされたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
賃貸物件が増え続けた背景あるのは、何も相続税対策だけではなく、過去の政策や国民の投資への意識的変化があるというのは想像に難しくはないでしょう。
少子高齢化から見る賃貸物件
日本の人口が減少に転じてから久しくなりますが、未だ少子高齢化問題は解決の糸口すら見つけられていません。
むしろ、解決の道を探るというよりも、少子高齢化が加速することを受け入れ、人口が減っても生き残れる知恵を生み出す方向に舵が切られていると言ってもよいでしょう。
日本の人口減少における問題は不動産関連に関わらず、「2020年問題」「2030年問題」「2050年問題」といったように様々な業界で懸念材料とされていますが、国立社会保障・人口問題研究所によると、2050年ころにはついに日本の人口は1億人を下回る試算が公表されています。
人口という絶対数が減っている事実に変わりはありませんから、今後も引き続き新築の賃貸物件の建設を続ければ需給バランスの崩壊を招くことは間違いないでしょう。
しかしながら、「人口が減ってもターゲットとなる年齢層が変わるだけ」「世帯数が落ち込まなければ需要がある」といった見方もあります。
これはつまり、核家族世帯やひとり親世帯、そして単身の高齢者世帯が増える事により、世帯を構成する人数は減りながらも世帯数自体が大きく減少する事はないことから賃貸物件への需要もある程度の水準を保持できるであろうという予測の話です。
とはいえ、改めて考えるとそれらは現時点での試算であることから、今後社会的に大きな変化が訪れれば、それらが机上の空論になる可能性も十分に考えられます。
このように少子高齢化という問題に直面していながら、未だ賃貸物件が年間で10万戸単位で増え続けているパラドックスを解消すべく、空き家となっている既存住宅を活かすための国レベルでの取り組みも始まっています。
「賃貸物件の供給過剰」という言葉も紙面を賑わすようになりましたので、今後の賃貸物件の新築ラッシュは徐々に減っていく可能性も考えられますが、既に物件を所有している不動産オーナーにとっては空き室対策だけに捉われるのではなく、既存住宅を活かすための知識やマーケティング力が求められるのではないでしょうか。
賃貸物件市場を取り巻く様々な意見
賃貸物件に関する話は何も今に始まったことではありませんが、一般的な認識として「不労所得を得るための手堅い投資」という見方をされる方が未だ多いのも事実です。
確かに、20年ほど前はそうであったかもしれませんが、上記までにご説明させていただいたとおり、経営の仕方によっては多額の負債にしかならないという事も考えられます。
不動産市場では色々な思惑から「住宅ローン金利を見ると今が買い!」ですとか「オリンピック終了後は不動産価格が大きく下落する」といったものもあり、一概に「これ!」といった結論が出せない状況下ではありますが、「空き室率」が高止まり、若しくは上昇傾向にある事は各機関でも把握している事実です。
ただ、今後の空き室対策については、どのメディアでも共通して「不動産オーナーの努力が必要不可欠である」といったことが重要だと言っています。
放置していても借りてくれる人がいた時代は終わり、これからは積極的に借り手を探す、若しくはアピールしていく必要があります。
Airbnbから急激な人気を集めた民泊可能な物件にしてみるですとか、逆に民泊による収益を目的とした又貸し需要を探ってみるという方法もあります。
ここ最近では、リフォーム可能な賃貸物件なども人気を集めています。
個人オーナーであれば一人で頑張ろうとせず、管理会社と緊密に連携を取りながら、賃貸市場のニーズや需要に沿った様々な工夫をしていくことで、賃貸物件の供給過多という逆境の中でも勝ち残れる不動産経営ができると言えるのではないでしょうか。