景観法とは?背景や目的を解説。美しい町並みは法律で守られる!
国内と海外問わず、歴史的文化が残る街や自然の豊かな地域に旅行に行って帰ってきたときにこんな事を思った事はありませんでしょうか。
「東京って人も多いし、建物や看板があちこちにあって、何だかゴミゴミしてるな…」
もちろん、人によって感覚は違うと思いますが、人が生活する事を前提にされた用途地域に住んでいるのであれば、ふと見渡せば建物やお店、道路、電柱といった、自然とはかけ離れた景色を毎日見ていますので、たまに行った旅行から帰ってくると、そんな感覚になるのも頷けます。
さて、日常から見慣れている景色の良し悪しは別として、地域によっては「景観法」を基にした街づくりを行っているところがあります。
「景観法って何だろう?」といったところを今回は解説させていただきたいと思います。
景観法に関するニュース
京都や奈良といった、歴史的文化財が多い地域では景観を特に意識した街づくりが行われているのは有名ですので、多くの方がご存知の事かと思います。
実は、後ほどご説明させていただきますが、景観法に基づく街づくりを行っているのは京都、奈良だけではありません。
直近ですと、以下のようなニュースが見られます。
「結城市が景観条例案 9月議会提出へ 歴史的街並み保全」
結城市は、街並みの景観を保全、形成するための景観条例案を、6日開会予定の市議会定例会に提出する。JR結城駅北側の旧市街地には、国の登録文化財約30件を含む商家の見世蔵など歴史的な建造物や樹木が多く残されている。一定の制限を設けて市内の景観を守る。
引用:Yahoo!ニュース
茨城県結城市は、無形文化財として指定されている奈良時代から続く織物文化や、街並みも鎌倉時代に作られた城下町の風景をそのまま残している地域です。
今回のニュースは、こういった街並みを保全する事を目的として、建築や増築、伐採や植栽に制限を設けることが市議会で話し合われることになったというもの。
違反すると、その人の名前を公表するという、なかなか厳しい条例になりそうです。
確かに、美しい景観を壊してしまうのは日本の歴史を無くしてしまうようで、できるなら避けたい事ですよね。
ただ、こういった条例は地方自治体が自由に制定しているものではなく、景観法というれっきとした法令に基づいて決められるものなのです。
では、その景観法について詳しく見ていきましょう。
景観法のあらまし
景観法そのものは平成16年に公布されたもので、さほど古い歴史のある法令ではありません。
とはいえ、国はそれまで景観保全のための政策は何も行われてこなかったわけではなく、風致地区や美観地区といったものを定めたり、「歴史的風土保存区域」といったものを制定したりする取り組みは行われていました。
しかしながら、それらは地方自治体の取り組みによるところが大きく、とはいえ地方自治体も支援が無ければ動かないという理由や、共通した法令がない事から訴訟問題などが起こるということがあり、法の整備が進められる事となりました。
景観法の目的
では、景観法では具体的にどのような事を目的とされているのでしょうか。
(目的)
第1条
この法律は、我が国の都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進するため、景観計画の策定その他の施策を総合的に講ずることにより、美しく風格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現を図り、もって国民生活の向上並びに国民経済及び地域社会の健全な発展に寄与することを目的とする。
引用:e-Gov「景観法」
法律という名の下に作られたルールにしては、「美しく」ですとか、「風格」「個性的」といった抽象的な表現が多くある法令ですので、日ごろ不動産の法令に触れられている方ですと、物珍しい感覚になるかもしれません。
尚、同法令では、国、地方自治体、事業者、住民といった別で責務を定めており、同法令に則って良好な景観の保に努めることとしています。
景観法そのものに強制力はない?
さて、街の景観を保つため何だか大活躍してくれそうな景観法ですが、実はあまり強制力の強いものではありません。
基本的には、「景観行政団体」の意思や計画に任されている部分が多く、ポジティヴに捉えるのであれば、これまで地方自治体が独自に制定してきた条例に対して、法的な根拠が付されたという風に言えるかもしれません。
第8条
景観行政団体は、都市、農山漁村その他市街地又は集落を形成している地域及びこれと一体となって景観を形成している地域における次の各号のいずれかに該当する土地の区域について、良好な景観の形成に関する計画を定めることができる。
引用:e-Gov「景観法」
景観行政団体とは、所謂、地方自治体と考えていただいて問題ないでしょう。
条文のように、「良好な景観の形成に関する計画を定めることができる」といった程度に抑えられた法令であり、「定めなければならない」とは記載されていません。
では、景観法に強制力がないという理由に不動産関連の会社が自由に建築を進めてしまうという懸念はないのでしょうか。
景観法に違反するとどんな罰則が?
さて、景観法に強制力がないとはいえ、ルールを破って良い、好き勝手に建物を建ててよいという理屈にはなりませんが、違反した場合の罰則はないのでしょうか。
実は、ちゃんと罰則はあります。
景観法とは、景観行政団体が「景観区域」というものを定め、その区域における良好な景観を保全するために建築物に対して一定の制限をかけられるものです。
つまり、地方自治体が景観法に基づいて景観条例を策定しますので、それに違反すると「条例違反」ということになるわけです。
更に、景観法自体にも違反者に対する罰則があります。
(原状回復命令等)
第23条
景観行政団体の長は、前条第一項の規定に違反した者又は同条第三項の規定により許可に付された条件に違反した者がある場合においては、(中略)その原状回復を命じ、又は原状回復が著しく困難である場合に、これに代わるべき必要な措置をとるべき旨を命ずることができる。
引用:e-Gov「景観法」
(違反建築物に対する措置)
第64条
市町村長は、第六十二条の規定に違反した建築物があるときは、(中略)当該建築物に係る工事の施工の停止を命じ、又は相当の期限を定めて当該建築物の改築、修繕、模様替、色彩の変更その他当該規定の違反を是正するために必要な措置をとることを命ずることができる。
(違反建築物の設計者等に対する措置)
第65条
市町村長は、前条第一項の規定による処分をした場合においては、(中略)これらの者を監督する国土交通大臣又は都道府県知事に通知しなければならない。
2 国土交通大臣又は都道府県知事は、前項の規定による通知を受けた場合においては、遅滞なく、当該通知に係る者について、建築士法、建設業法又は宅地建物取引業法による業務の停止の処分その他必要な措置を講ずるものとし、その結果を同項の規定による通知をした市町村長に通知しなければならない。
引用:e-Gov「景観法」
65条の「業務の停止」といった処分は、不動産業者や建築会社にとっては大打撃となりますので、絶対に避けたいところかと思いますが、そもそも景観地区と指定された区域でなくても、建物を建てる時は建築許可が必要になりますので、もし違法な建築をしようとしたとしても許可が下りる事はないでしょう。
景観法まとめ
景観に関する制限は日本だけでなく、海外にもあります。
ヨーロッパ圏の観光地域においては、ホントに美しい町並みを見る事ができますが、これらもやはり景観に関する制限があってこそのものなのです。
ただ、景観に関する美しさの感じ方は人それぞれです。
国や地域によっては、街中がネオンや看板、ガラス張りの建物だらけなんて光景もありますが、夜景として見た時にそれらも景観の一つと言えるのではないでしょうか。
大事なのは、その地域の歴史や育まれた文化を残しながらも、住民と行政、そして国が一体となって街の発展のや暮らしやすさを追求していくことなのかもしれません。