所有者が分からない土地ってどうなるの?ニュースに学ぶ不動産
皆さん、日本には所有者が不明の土地が案外多いってご存知でしょうか?
マンションやアパート、戸建て、倉庫、店舗、駐車場と様々な物件には必ず「不動産登記」を行う必要がありますが、日本には登記されないまま放置されていたり、登記情報を確認しても誰の土地なのか分からない物件が意外と多いのです。
そんな所有者不明土地に対して法務省はこの度、本格的な調査の必要があるとして、来年度予算案に調査に必要な予算である34億円を要求する事となりました。
何故、そのような調査が必要になったのか。
今回は所有者不明土地という問題についてお話させていただきたいと思います。
目次
実は既に行われていた所有者不明土地の調査
法務省だけではなく、様々な業界で所有者不明土地の問題は取り上げられていましたが、法務省ではこの所有者不明土地の調査を、以下のような調査結果として公表しています。
大都市:0.4%
中小都市、山地:7%
・最後の登記から70年経過しているもの
大都市:1.1%
中小都市、山地:12%
・最後の登記から50年経過しているもの
大都市:6.6%
中小都市、山地:26.6%
参考:法務省「不動産登記簿における相続登記未了土地調査について」
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00291.html
驚くべきは、中小都市と山地の登記から50年という比較的最近の土地について、登記未了の可能性があるものが全体の3割近くに上るという結果です。
しかもこれは、法務省が調査結果に偏りが生まれないようにバランスよく調査したものではありますが、調査したのはほんの一部の地域だけですので、この時点でこれだけの所有者不明の土地があるという事が明らかになったのであれば、やはり一つの問題として取り上げていく必要があると言えるでしょう。
さて、実は今回こちらの記事を執筆させていただいたのは、以下のような報道を目にしたのがきっかけでした。
参考:朝日新聞デジタル「所有者不明土地、法務省が本格調査へ 24億円予算要求」
http://www.asahi.com/articles/ASK8Z5GQRK8ZUTIL01W.html
所有者不明土地による弊害
では何故、所有者不明土地が問題とされるのでしょうか。
以前から所有者不明土地はいずれ問題となるのではないかと言われていましたが、東日本大震災の復興が行われる中で、所有者不明土地が障害となり、なかなか復興が進まなかったことをキッカケに問題が大きく取り上げられる事となりました。
では、東日本大震災の復興の為だけに所有者不明土地の問題を解決すべきなのでしょうか。
実はそうではなく、改めて何が問題なのかについては、「一般財団法人 国土計画協会」の所有者不明土地問題研究会でも以下のように述べられています。
土地の荒廃
もしかしたら、ドキュメンタリーやニュースなどで「放置された土地」について報道されているのをご覧になったことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、所有者不明であるという事は、その土地を管理する者がいないということでもありますから、土地は荒れ放題になるのは必至です。
税収額の減少
登記が行われないまま放置される事態に陥っている土地というのは、本来の相続人すらその存在を把握していない、若しくは忘れているなんて事もあるかもしれません。
このまま所有者不明土地が放置、または増加していく事となると、地方自治体の財政に影を落とす事にもなりかねません。
治安の悪化
国土荒廃となれば、今度は治安の悪化が懸念されます。
誰だかよく分からない人がその土地に住み始めたり、建物への不法侵入や不法投棄、放火などの事件に発展する可能性があります。
土地利用や取引の停滞
土地の所有者が分からないとなれば、当然、無断で売買はできませんし建物も立てられません。
これが震災による復興の障害となっていたわけですが、他にも公共事業がスムーズに進められないといった地域の産業、コミュニティなどにも影響を及ぼします。
参考:一般財団法人 国土計画協会「所有者不明土地問題研究会 中間整理」
http://www.kok.or.jp/project/fumei.html
一つ一つを見ていくと、さほど大きな問題ではないように思えますが、これは一つの土地に対しての事ではなく、日本全体に広がる問題なのです。
何故、所有者不明土地になるの?最終的にどうなる?
実は、不動産登記というのは義務ではないばかりか、登記をしない事による罰則もないというのをご存知でしょうか。
通常、土地の所有者が死亡などした場合は相続にて所有権の移転が行われますが、この相続登記がされていないケースが多く存在するのです。
なんで相続登記をしないのか考えてみましょう
もしあなたの親戚が死亡し、あなたが相続人であった場合に、誰も見向きもしないような僻地の奥の奥、住むにも住めないような土地の相続をすることとなったらどうでしょうか。
相続をするとなれば、相続税に固定資産税など費用ばかりが生まれ、かといって売るに売れない土地であるため、最終的には「放置」という事を考えられるかもしれません。
そうこうしている間に、年月は過ぎ、親族が増え、相続の権利者も増え、あなた自身も老衰にて死亡してしまったとしたら…。
そんな風に、土地を放置する事で元々の所有者から現在の相続人を探し出すことが難しくなった結果、「所有者不明土地」が出来上がるのです。
本来の考え方ならば、土地の所有者に固定資産税の請求を行い、納付が無ければ土地を差し押さえるという事ができますので、それで万事解決としたいところですが、結局のところ所有者不明で本来の相続人が誰だか分からなければ、固定資産税を請求する事も土地を差し押さえる事もできません。
まとめ
上記にご紹介させていただいた国土計画協会の所有者不明土地問題研究会によれば、所有者不明土地を全て合わせると、九州のより広い面積になるのではないかとさえ言っています。
こういった所有者不明土地を増やさないためには、登記の義務化、未登記の土地は権利の失効など、法の改正を急がなければいけません。
法務省による調査結果と、今後の法改正に期待したいところです。