地面師の恐怖と積水ハウスの63億円詐欺事件!~後編~
ハウスメーカー最大手である積水ハウスに起こった巨額詐欺事件。
今回は後編という事で、事件の真相をできるだけ掘り下げていきたいと思います。
目次
違和感の多い事件
今回の事件で、積水ハウスの発表によると売買代金は70億円ですが、詐欺被害に遭ったのは63億円とされています。
各メディアの話によれば、以下のような時系列で今回の事件が発覚したようです。
巨額詐欺事件の時系列
以前から土地の所有者であるAさんは、それまで土地を「売らない!」と決め、様々な業者からの売却を断っていたとの事。
しかしながら、平成29年4月24日に売買予約の登記が行われます。
その権利者がIKUTAホールディングスです。
登記上の動きだけを見ると、IKUTA社が何らかの事情で売買予約の権利を得て、その後、積水ハウスへ転売するという流れだったことが分かります。
それから2か月半経過したころ、実弟とされる2名の男性が6月に相続を行っているとして所有権移転の登記を行っています。
つまり、土地の所有者であるAさんが亡くなったのだと考えられますが、実弟らは「この土地には売買の話なんてない。所有権は相続により私たちに移転された。」ということを申し出て、それが認められます。
結果、7月25日には売買予約の登記事項が抹消されました。
なぜ騙されたのか
弁護士や司法書士がいながらにして、何故このような事態になってしまったのか。
考えられる事は以下のような事です。
IKUTA社による所有権移転請求権仮登記がなされていることで、積水ハウスの担当者も安心していたのかもしれませんし、司法書士による単なる確認ミスという可能性もあります。
どちらにしても、一連の流れの中に、必ず偽造書類が存在しますので、本来なら防げたはずの事件であったと言えるかもしれません。
ただ、見出しにある「違和感」とは上記に挙げたようなことだけではありません。
IKUTA社、司法書士、担当者についてほとんど語られず
さて、今回の件では「積水ハウス」という名前だけが大々的に取り上げられていますが、事件には「IKUTAホールディングス」「司法書士」「担当者」が直接関わっており、現在のところ彼らについてはほとんど報道されていません。
IKUTAホールディングスについて
また、IKUTA社についてはホールディングスと名乗りながら、その実態や所在地に謎があるということで、巷では地面師との繋がりを疑う声も多くあります。
更に、これまでの地面師にまつわる事件には司法書士がグルであったというケースもありますし、ここまで巧妙な事件であれば積水ハウスの担当者すら…、そんな憶測が飛び交っています。
ただ、現状までの話のほとんどは憶測や推測の範囲であり、ほとんど彼らについては報道されていない状況。
もちろん、警察による捜査の関係であまり公表できない事もあるのでしょうが、今時ホームページも持たないペーパーカンパニーが関わっているという事実、専属の司法書士がいながら書類の偽造に気付けなかった事実、そして、実は以前から海喜館については地面師による事件のあった物件として業界では有名であったにも関わらず、アッサリと事件に巻き込まれてしまった経緯を考えると、メディアが言うよりも先に、その違和感や不自然さが多くある事を感じる事ができます。
とはいえ、改めて申し上げますが、今これらを語ろうとしても全て推測にしかなりませんので、今後の動向に注目したいところです。
担当者、司法書士はどうなるのか
司法書士の責任
司法書士には「司法書士賠償責任保険」というものがあります。
これは、業務上の過失により事故が起こってしまった場合に、多額となる損害賠償請求を保険会社に賠償してもらえるものです。
「そうなんだ!じゃあ司法書士が被害を訴えられても安心!」
実はそのように安心はできません。
司法書士には、強制的に加入する費用のある保険と任意の損害賠償保険がありますが、強制保険は1000万円、任意の保険も高くても数億円といったところが相場です。
つまり、今回の積水ハウスの事件である63億円には到底及ばない保険額なのです。
積水ハウス担当者の責任
そして、今回の件に関わった積水ハウスの担当者ですが、当然、氏名が明かされることもありません。
これだけの巨額な損失ですので、本人としては大型案件を得た喜びから、地獄に突き落とされたような気分ではないかと思います。
しかも、直接の関係者であるという事から会社内での立場に大きく影響するだけではなく、捜査関係者から追求されることは間違いないでしょう。
謎の多い積水ハウス63億円詐欺事件
前編、後編で積水ハウスが被害を受けた、地面師による巨額詐欺事件について解説させていただきました。
詐欺事件となると必ず複数の人間が関わりますから、事実が判明すればするほど泥沼化する事は必至だと考えられます。
ここまでをまとめさせていただくと以下のとおり。
今回の事件を語るメディアのほとんどが上記について書き立てていますが、積水ハウスが泣き寝入りをするのか、徐々に事件の真相が明らかになっていくのかは今後を見守るしかありません。
地面師の被害は、土地の所有者であれば誰にでもあり得る話であり、それが資産価値の高いものなら尚更でしょう。
所有権や売買に関わる話が持ち込まれた場合は、司法書士や不動産会社の担当者を信用しきってしまうのは危険だと言えます。
取引に関わる人間全てを疑おうという話ではありませんが、筆者の経験上、「いい土地が出たら言い値で買うから紹介してくれ」ですとか、逆に「こちらの言い値で買ってくれる人がいたら紹介して」と、他人に自分の取引を丸投げしてしまう人がいるのも事実です。
もし筆者が詐欺を行う可能性がある人間だとしたら、私に全てを委託していた顧客は今頃破産していたかもしれません。
不動産の売買契約の際はもちろんですが、自分の所有する土地に対して「所有権は私にある」と安心してしまうのではなく、不動産に関わる話の中で違和感を感じた時は細心の注意を払う必要があります。
同時に、登記を行う側のセキュリティの甘さを改善する必要もあると言えるでしょう。
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