意外と身近な賃貸トラブル事例集~近隣住人の迷惑行為編~
賃貸トラブルのコラム5回目となります今回は、不動産オーナー様には直接的被害はなくとも、営業妨害にあたるかもしれない自己所有物件への間接的なトラブル事案についてです。
賃貸経営においては、借主の賃料の支払い義務だけでなく、善管注意義務、用法遵守義務といったものがあり、貸主に至っては物件を使用させる義務、物件を修繕する義務、そして当然、契約事項の履行を行っていく義務があります。
ただし、所有物件の周辺で大規模建設などが行われる際の説明義務や環境配慮義務は建設会社にあったとしても、個人の住人が賃貸物件に対して行う義務というものはあまり耳にすることもないかと思います。
そこで、今回のテーマは、所有物件に居住する方以外の「近隣住人の迷惑行為」についてお話させていただきたいと思います。
目次
よくある近隣住人の迷惑行為
何故今回、所有物件とは直接関わりのない近隣住人にスポットを当てるかというと、賃貸経営を行う上で周辺環境の良し悪しや、近隣住人による迷惑行為の有無、そして自己所有の物件に対する周辺住人の反応というものを気にする借主の方もいらっしゃるためです。
実際に、過去の判例では野良猫に餌付けをしたために周辺に野良猫が増え、糞尿による悪臭で居酒屋の店舗経営や賃貸アパートの経営に影響が出たという事で、損害賠償請求の裁判に至ったケースもあります。
つまり、こういった近隣住人による迷惑行為は自身の賃貸経営におけるマイナスポイントに繋がる可能性が考えられますので、改めて、賃貸経営を行う上で収益悪化に繋がりそうな事由については把握、若しくは事前の対策などを検討していきたいところです。
では、自身の所有する物件周辺の住人によるトラブルとはどのようなものがあるのでしょうか。
・契約をしていない車の違法駐車
・住人のものではない自転車の無断駐輪
・自己所有物件の建設時における周辺からのの苦情
・第三者による敷地内への不法侵入
・近隣住人によるアパートのゴミ集積所への不法投棄
・隣接する建物からの盗撮行為
・近隣住人からの精神的嫌がらせ
・近所の広場で学生が騒ぐ
・向かいの戸建ての犬が吠え続ける
・道路で遊ぶ子供がボールを窓に当てる
・緑があるのはいいが、大きな木が日差しを遮る
・根も葉もない噂を立てられる
etc・・・
もはや、賃貸経営を行う上での注意点とはかけ離れた困った問題が数多く報告されていますが、冒頭でお話させていただいたような貸主、借主の義務違反では片づけられない難しい問題であるため、トラブルが大きくなって裁判になってしまうことが多いようです。
賃貸に関わるご近所トラブル実例
向かいにある住人による迷惑行為
これは、近隣の住民Aが野良猫に餌をやり続けたことにより、Bが営業する1階の飲食店の周辺に放尿、排便がされている事で営業に支障が出たという事を主な争点として争われた裁判です。
他にも、窓を開けて大声で名を呼ぶ、恫喝まがいの言葉を吐く、飲食店の取引先に不正な働きかけを行い、飲食店の経営に支障が生じたということも争点となりました。
結果的に、認められた主張と否認となった主張で分かれたものの、全面的に原告であるBの勝訴となり、住民Aは損害賠償を支払う事となりました。
(平成15年6月11日 神戸地方裁判所)
隣のビルに開店した飲食店による騒音、臭気の裁判
自己所有のビルに住むCさんとそのビルの賃貸人による、隣接するビルの1・2階に開店した飲食店チェーンDに対して訴訟を起こしたケースです。
飲食店のダクトや、22台にもなるエアコンの室外機の設置により、騒音、熱風、匂いが原因で窓が開けられなくなったというものです。
ただ、この判例では、被告である居酒屋チェーンD側からダクトや室外機の移設に関する改善案の提示や、室外機が無ければ営業が困難になるという理由から、室外機やダクトの撤去の請求は退けられました。
とはいえ、騒音や熱風などの被害については実質的に受忍限度を超えている事は認められるに至りました。
(平成14年4月24日 東京地裁)
ゴミの集積所を輪番制にする事に反対されて裁判に至ったケース
アパートやマンション経営の不動産オーナー様であれば、あまり該当しないケースかもしれませんが、住宅地におけるゴミの集積所にまつわるトラブルです。
Eさんが家を購入した当初、近所の空き地にゴミの集積所が設けられていたが、その空き地に家が建ったことでEさん宅の駐車場そばに設置されるようになりました。
しかしながら、Eさん宅では悪臭やゴミの散乱などに悩まされるようになったため、自治会にて集積所の輪番制を求めましたが、周辺住人の反対もあり認められませんでした。
これにより、Eさんは周辺住人に対して、ゴミの排出停止を求めた提訴を行います。
その後、裁判所からの和解勧告あってEさんは訴えを取り下げたものの、ただ一人、Fさんだけがこの和解に応じないばかりか、Fさんが自治会長に就任してからこの問題をないがしろにするという結果になり、引き続きEさんはこのゴミの集積所の問題に悩まされることになりました。
結果、話し合いをすれば解決できるものをFは放置し続けたと認められて、Fさんのゴミの排出を禁ずるという珍しい判例となっています。
(平成8年2月28日 東京高裁)
近隣トラブルを未然に防ぐ
不動産オーナー様にとっては、「借り手がつかない」「借主が問題を起こす」「管理会社が不誠実だ」など、様々なトラブルや悩み事が想定されますが、どの問題も未然に防止するためには契約上の特約などにより一定の効果に期待ができます。
しかしながら、契約の相手方とはならない近隣住人を発端とするトラブルが起こった時、解決するには少々厄介な問題に発展する可能性が考えられます。
昨今ではご近所づきあいをしなくなったことが原因でトラブルになるケースが多いとも言われていますが、確かに、普段からご近所との付き合いや会話があれば、多少の事で誤解を生むことも少なく、その誤解が大きな訴訟問題にまで発展する事も少ないのではないかと考えられます。
ただ、賃貸アパートやマンションのオーナー様であれば、そういったご近所づきあいは無縁のように思えますし、実際に借主に「近隣の方とのコミュニケーション」を強要するわけにもいきません。
つまり、その建物に住んでいないのに近隣トラブルについて予め防止策を考えておくと言っても、いまいちピンとこないかもしれません。
しかしながら、不特定多数の人が同じ建物内で暮らしているという事は考慮し、最低限、借主の方に対してゴミの分別には注意を促す、近隣に迷惑となるような音を出さないなどの注意を促し、共有部の明かりを深夜は暗めにする、植栽が隣接する住人の邪魔になっていないかなどの配慮をする事で多少なりとも近隣トラブルの防止につなげられることでしょう。
つまり、自己所有の物件が他人に迷惑をかけていないかという事を日ごろから気に掛けられるかどうかも、不動産オーナー様の責務の一つだと言えるかもしれません。