意外と身近な賃貸トラブル事例集~ゴミ、悪臭編~
前回、賃貸トラブルの事例として、ペットトラブルについてご紹介させていただきました。
ペットを飼った事による汚損や破損はもちろん、消毒などの修繕義務があるものの、ペットを飼っていたという事だけで部屋全体のクロスの張替えまで必要はない、そんな判例もありました。
賃貸のトラブルはこういった「原状回復」によるトラブルが非常に多く、90万件以上の相談が寄せられる消費生活センターによると、原状回復に関するトラブル相談は2016年時点でも約1万4千件にのぼります。
参考:国民生活センター「賃貸住宅の敷金、ならびに原状回復トラブル」
そんな中、原状回復トラブルで意外と相談が多いと思われるのが「ゴミ」「悪臭」に関する問題です。
各サイトを探っていくと「賃貸 ゴミ」「賃貸 悪臭」と検索しただけでもかなりの量がヒットします。
今回は、賃貸経営におけるゴミや悪臭のトラブル事例と、トラブルを収束するためのポイントなどもご紹介させていただきたいと思います。
目次
ゴミに関する事例
賃貸契約後にまさかのゴミ屋敷化
テレビでもたまに見かける事のある「ゴミ屋敷問題」ですが、賃貸住宅においても問題になるケースはあります。
世の中には実際にこういった事例があり、判例を見かける事はなかなかありませんが、相談内容としてゴミ屋敷問題は少なくないようです。
ただ、原状回復のトラブルで争点になりそうな「どこまでがゴミ?」という疑問もある上に、勝手に中に入ってゴミを撤去するのは所有権の侵害にあたります。
つまり、相手が明らかに悪いと分かっていても、こちらが不法行為による解決をしても良いという理屈は通用しないという事です。
とはいえ、ゴミ屋敷化した部屋をそのまま放置していては、衛生上の問題、近隣住人への悪臭被害、場合によってはゴミへの引火による火事に繋がる可能性もありますので、早急な対処をした方が良いでしょう。
ゴミ出しの日を守らない事によるトラブル
マンション規模となればほとんどの物件でゴミ捨て場の設置を義務付けられますが、アパートも同様に一定の戸数以上の規模になればゴミ集積所の設置が必要となります。
尚、戸建て物件の場合は、地域の自治体が管理している集積所を使用する事となります。
そんなゴミ出しについてのトラブルですが、「ゴミの分別」「町内会との揉め事」「ゴミ出しの日を守らない」といったものが主なトラブルの要因となっています。
「ゴミを出す」という事を聞いただけでは、「トラブルになんてなるの?」と思われるかもしれませんが、ゴミを出すのは借主、ゴミを収集してくれるのは市区町村であり、ゴミの集積所を管理するのは町内会や家主、管理会社です。
ゴミ捨て場一つとっても様々な人の権利、義務が存在しますので、賃貸物件のゴミ捨て場の管理だけでなく、借主によるゴミ捨てのマナーについても一定の取り決めはしておくべきだと言えます。
悪臭に関する事例
賃貸物件は、上記までのゴミ問題も然ることながら、ペット、生活汚水、タバコ、ゴミといったものによる悪臭のトラブルも発生します。
ニオイを放つものは無数にありますから、こちらも一概に何を悪臭とするかは判断が難しいところですが、賃貸トラブルの範囲ですと、主に以下のようなものがあります。
視覚的に確認が取れないニオイに関する問題ですので、個人の判断で注意を促したり、主観による退去通知を行うのは控えた方が良いかもしれません。
かといって、近隣住人の平穏な生活を脅かす事由についてはしっかり対処する必要もあります。
では、これらゴミ、悪臭の問題にはどのような対処をすべきか解説させていただきたいと思います。
貸主によるゴミ、悪臭の問題への対処方法
ゴミの問題でも申し上げましたが、第三者に迷惑をかけているからといって、勝手にゴミを撤去する事はご法度です。
しかしながら、問題は解決していかなければならないため、以下のようなポイントを抑えておくと良いでしょう。
そもそも、物件を契約した借主には「善管注意義務」がありますので、その建物、若しくは借りている物件を使用するにあたっては、注意を払って使用する義務があります。
よって、場合によっては契約解除にあたるものとして扱う事もできますが、やはり度合いによるところがあるため個人の判断ではなく、専門の方に相談すべきと言えます。
ただ、過去に実際にあった判例として以下のようなものもあります。
大量のゴミを居室内に放置したトラブルの判例
貸主の主張は「信頼関係を著しく破壊している」、借主の主張は「信頼関係を破壊し、契約解除に至るほどの事ではない」というものでした。
ただ、裁判所の判断ではゴミの放置があったところで契約解除に至るほどではないが、今回のケースは長期間、且つ常識的な範囲とは言えない大量のゴミが放置されていたという事から衛生上、防災上の危険性がある事から、契約解除の判断に相当する事由であると判断されました。
東京地方裁判所 平成10年6月26日
野良猫への餌付けによるトラブルの判例
住人Aが野良猫に餌付けをしたことにより、複数の野良猫が集まるようになったうえに、敷地内への侵入、糞尿による悪臭が問題となったもの。
悪臭発生の差し止め請求と、賃貸物件が悪臭を要因として空き室が続いていたことによる損害賠償請求が認められました。
東京地方裁判所 平成23年7月29日
どちらの判決も長期間、トラブルが続いていたという事もあり裁判に発展しているケースです。
そのような事態にならないためにも、契約事項には特約にて「著しく不衛生であった場合は契約解除とする」「注意をしても改善されない場合は契約解除とする」などを付け加えつつ、苦情が入る前に異変に気付いたのなら早急に借主への注意、通告、そして管理会社や弁護士への相談を始めた方が良いと言えるでしょう。