意外と身近な賃貸トラブル事例集~ペット編~
ペットは家族の一員なんて言葉があるように、今も昔もペットは心の拠り所として愛され続けてきました。
ただ、誰しも動物が好きだとは限らず、動物恐怖症の方や衛生上の問題で動物を毛嫌いされる方もいらっしゃいます。
また、動物は嫌いではなくてもアレルギーを発症してしまうという方もいらっしゃいますので、ペットを家で飼う時、または自身の物件をペット可に変更する場合などは周辺住民への配慮や、契約事項の確認や遵守が大事なことになります。
ペット可物件となると敷金の問題もありますから、賃貸物件のオーナー様に至っては、ペットのトラブルにどう対処していくかは気になる事かと思います。
そこで、賃貸物件の経営でよくある、ペットに関するトラブル事例をご紹介させていただきますので、一つの参考としてご覧いただければと思います。
目次
ペットトラブルのよくある事例
鳴き声や走り回る音がうるさい
ペットというと主に犬や猫をイメージされるかと思いますが、金魚やインコなどと違って家の中をバタバタ走り回りますし、犬に関しては特に鳴き声がうるさいという事でトラブルになりがちです。
「鳴くな!」といって鳴き止むものでもありませんし、しつけやトレーナーの助けがないと無駄吠えを無くしたり、大人しくさせることは難しいものです。
では、もし自身の所有する物件をペット可にしていたとしたら、どのように対処すべきでしょうか。
これはなかなか難しいもので、飼い主の良心や判断に委ねられるところが多く、オーナー様にとっては問題なくても住人同士のトラブルに発展する可能性があります。
ただ、契約の内容として「ペット可」としていたとしても、周辺住民の生活環境にまで影響する、または限度を超えた迷惑に至っているような場合であれば、契約解除ができる場合もあります。
とはいえ、そのようなケースに発展すると裁判にもつれ込む可能性も高くなりますので、そうなる前に、管理会社へ相談のうえで早い段階でペットの騒音に関しては賃借人への注意を促し、できれば騒音や注意をしたという証拠を残すことが後々トラブルが起こった時の早期解決への糸口となるでしょう。
ペット不可であるにも関わらず、ペットを飼っている
これは非常に多いケースだと言えます。
事実、これまでにも多くの判例の中で「ペットの飼育を禁止していたのに飼っていたため敷金を返してもらえないという理屈が通用するのか」「ペット不可物件のためペットを手放してまで引っ越してきたのに、引っ越してみると多くの世帯でペットを飼っていた」など、様々なケースがあります。
特に敷金問題に発展するケースが非常に多く、賃貸人が原告となって賃借人である被告に原状回復費用を請求して勝訴するも、ペットと関わりのない部分の原状回復費は通常損耗として扱われたという判例もあります。
つまり、「ペット不可」としていたことで契約解除に相当な理由はあったとしても、ハウスクリーニングや原状回復費用については状況により判断が違います。
「契約違反」をイコールとして「敷金無返還」としてしまうと裁判沙汰になる事が予想されますので、このようなケースがあった場合は賃借人との話し合いの上で解決への道を探るようにしたほうが良さそうです。
衛生上、明らかに問題のある飼い方をしている
ペット可とは言っても、入居者が飼う動物が「犬一頭」「猫一匹」とは限りません。
多頭飼いをされている方やブリーダーとして活動しているため、部屋の中がたくさんのゲージで埋まっているというケースもあります。
そもそも、犬や猫を繁殖する目的で部屋を借りている事が発覚すれば別の問題に発展しますが、そうでなくても、多数飼育をしている場合は衛生上の問題でトラブルになりがちであり、共有スペースに排せつ物が放置されていたり、ベランダで飼っていることで毛やニオイのトラブルになるといった事例もあります。
そういったトラブルを回避するために、オーナー様の中には「動物は1生体まで」「小型犬1匹まで」「室内飼育のみ」という特約を付けたうえでの契約が必要になるでしょう。
「小鳥はどうなる」「カメはどうだ」など細かいことを追求するとキリがありませんが、「ペット可」とするのであれば様々なケースを予測して、予め対処できる契約内容にする必要があります。
最初はペット不可(ペット可)としていたが、後にペット可(ペット不可)にする場合
このケースはあまり多くはないかと思いますが、ペット不可の物件をペット可にする場合や、その逆のペット可をペット不可にする場合、既に入居済みの住人への事前の通知や説明は必須だと言えます。
家族同然に一緒に暮らしているペットを手放す必要が出てくる「ペット不可」への変更は、実際に裁判になったケースもあります。
後ほどご紹介させていただきますが、ペット不可ではなかったのに、途中からペット不可になったことで裁判にまで発展したものがあります。
一般的に見た時に「ペットも生き物なのに!」と主張される方もいらっしゃいますが、「規則は規則」として判断する方も少なくありません。
自身の所有するマンションの規約のうち、ペットに関わる部分の変更には十分に注意する必要があるでしょう。
実際にあったペットに関わる裁判
敷金返還を命じた判例
「1年半ほど入居した部屋でペットを飼っていたことを理由に敷金返還をしない管理会社に対し、敷金返還を命じた判例」
これは、原告が1年半ほど入居した物件に対して、被告である賃貸人が「ペットを飼っていたからハウスクリーニングなどを含めた原状回復費が50万円ほどかかる」という理由で、敷金を返還しなかったものです。
事実として、原告はチワワを1匹飼っていましたし、玄関のドアの外側に大きな凹み、タバコの焦げ跡もありました。
また、ベランダで排泄をさせるなどの事実も認められました。
よって、被告側は「クッションフロアー張替費用、玄関ドア交換費用、つり込み施工費、クリーニング費用、残材処理費」といったものの全ての費用である約50万円を理由に敷金を返還していませんでした。
しかしながら、裁判所は以下のように判断しています。
更に、ペット飼育によるハウスクリーニングは必要だとしても、クロス張替えの必要性も認められない。
よって、ペット消毒にあたるハウスクリーニング費、タバコの焦げ跡の修繕費は敷金から差し引いて、残りは原告に返還しなさい。」
参考:東京簡易裁判所 平成14(ハ)3341 敷金返還請求
ペット不可に変更された管理規約に対する裁判
「ペット不可とはされていなかったが、途中でペット不可に変更された管理規約に対する裁判」
こちらは賃貸ではなく分譲マンションにおけるトラブルです。
とはいえ、上記にご紹介させていただいたトラブル事例に関係のあるものとしてご紹介させていただきます。
ペット不可ではない事を確認してから物件購入をしたにも関わらず、途中、管理組合により「ペット不可」に変更されたことが発端となって争われていました。
問題となってから実に約20年ほど争われていましたが平成6年にようやく決着がつきました。
被告の主張
区分所有法にある「共同の利益に反する行為」とは、動物の飼育そのものではなく、飼育によって他者に迷惑をかける行為に限定される。また、動物の飼育を全面禁止にする変更を承諾なく行ったことは、「控訴人(被告)の権利に特別の影響を及ぼす」ため無効である。
裁判所の判断
そもそも、管理規約の趣旨は住人の共同の利益を確保する事が目的であり、動物の飼育に配慮された作りに元々なっていないので、飼育そのものが管理規約違反とも言える。
しかしながら、「公序良俗に反する行為、震動、騒音、臭気、電波等により居住者及び近隣に迷惑を及ぼす行為、又は不快の念を抱かせる行為をすること」という規約自体が抽象的であり、動物の飼育自体を禁止していると解釈するのも難しいため「最初から禁止だった」という原告側の主張は認められない。
よって本件は、戸建てならまだしも、マンションという極めて近接した住環境である場合において、住人の生活を平穏にするための保証として管理規約の変更があるのは仕方ない事であると考え、管理規約の変更は有効であると判断する。
とはいえ、犬、猫、小鳥など、何をペットとするかは判断が非常に難しく、盲導犬と暮らすというケースもある。
よって、全面禁止にしたとしても、管理組合との話し合いで例外を認めるなどの合理的な対処も必要だと言える。
参考:東京簡易裁判所 平成3年(ネ)4490号 犬の飼育禁止請求事件
賃貸経営におけるペットの飼育をどう考えるか
判例も含めて、賃貸物件のペットに関するトラブルをご紹介させていただきました。
判例の2つ目に関しては「途中で変更したのだから無効ではないか?」と思われた方も多いかと思いますが、実際にはそのような判決には至っていません。
つまり、一般的な認識の中で「これは大丈夫だろう」「妥当な判断だ」としてしまうのは、後のトラブルに発展する可能性がある事がお分かりいただけるかと思います。
住まいに関わるペット飼育の裁判はこれまでにも多く行われており、餌付けをしたら飼育と判断されたものや、ペット不可物件で動物を飼っている人がいたのを黙認していた事に対して訴えられたというようなケースもあります。
不動産オーナー様にとって「トラブル」そのものは、金銭的にも時間的にも損失以外の何物でもありませんので、不安に思うようなことがあれば、弁護士、管理会社への相談と連携をもって迅速に対応していく事が重要だと言えるでしょう。