賃貸物件をペット飼育可能にするメリットとデメリット
少し前まで、ほとんどの賃貸アパートやマンションでは犬や猫のペットを飼う事はほとんど許されていませんでした。
ただ、ここ数年でそんな賃貸事情も随分と様変わりして、ペット可物件は増えたと言われています。
ペット可物件については、これまでも散々議論されてきた感がありますが、改めてペット可物件の現状と、メリットデメリットについて考えてみましょう。
目次
そもそも全国のペットの数は?
まず、全国のペットの数を見てみましょう。
一般社団法人ペットフード協会では毎年「全国犬猫飼育実態調査」を行っていますが、ペットブームと言われているのとは裏腹に、意外な結果が出ています。
まず、10年前のペットの飼育数の推計ですが、主に買われている犬猫の数は「犬=約1209万頭」「猫=約1246万頭」という結果になっています。
これは全国の世帯数の割合で見ると「犬=19.2%」、「猫=14.7%」という事になりますが、犬猫合わせた頭数が約2455万頭ですから、実に総人口の5人に1人程度、総世帯数ならば2世帯に1世帯はペットを飼っているという事になります。
参考:一般社団法人ペットフード協会「第13回(平成18年度) 全国犬猫飼育率調査結果」
http://www.petfood.or.jp/topics/0701.shtml
鳥や爬虫類といったペットまで含めると、その数はもっと膨れ上がるであろうと考えられますが、賃貸物件でペットに関して考察するのであれば犬猫でまずは考えるべきでしょう。
では、10年経過した現在はどのような変化があったかを見てみると、「犬=約988万頭」、「猫=985万頭」という推計が出ており、合計して1973万頭となっています。
頭数だけ見ると犬猫共に300万頭ずつ減少していますので、一時のペットブームは随分と落ち着いてきているのだという事が分かります。
参考:一般社団法人ペットフード協会「平成28年全国犬猫飼育実態調査 結果」
http://www.petfood.or.jp/topics/img/170118.pdf
ペット可物件の供給数と実態
ペット可としている物件の数は分譲、賃貸などを含めてもさほど多くないとは以前から言われていますが、比較的ペットの飼育が可能だと言われる分譲マンションでも供給数は8割程度とされています。
対する賃貸物件でのペット可物件の数ですが、公式に発表されているデータは特にないものの、大手の賃貸物件サイト数社にて全国のペット可物件を検索しても、ヒットするのは15~20万件程度であり、ペットの頭数からするとペット可物件は1割にもならないことが分かります。
仮にサイトに掲載されていない物件数を加味したところで、さほどその数は増えないであろうという事も推測できます。
もちろんこの数字は、マンション、アパート、戸建てといった絞り込みは行わない全体的な数字ですので、改めてペット飼育を可能とする物件数の少なさが浮き彫りになった結果だと言えるでしょう。
では、この需給バランスを考えた時に「ペット可物件にした方が賃貸経営は有利なのではないか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、なかなかそういったわけにもいかない事情があります。
「国民生活センター」では賃貸住宅の敷金や原状回復のトラブルの相談件数を毎年公表していますが、2011年の1.5万件から直近2016年では1.3万件と、毎年微減傾向にあります。
昨今では民法改正やガイドラインの改訂もあり、敷金や原状回復における問題も少しずつ落ち着いてきているのではないかと思われます。
参考:独立行政法人国民生活センター「賃貸住宅の敷金、ならびに原状回復トラブル」
http://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/chintai.html
しかしながら、「不動産適正取引推進機構」のアンケート結果によると、不動産オーナーから見た管理面や人的なトラブルのうち24~25%がペットの飼育によるものであるとしています。
これは、管理面においては家賃や敷金のトラブルの次、人的トラブルの面では騒音や共有部の汚損、不正使用などの次に多いトラブルですので、ペットに関するトラブルはやはりオーナー側から見たらリスクとして事前に検討するべき一つなのです。
一般財団法人 不動産適正取引推進機構「不動産取引に関する研究」
http://www.retio.or.jp/research/research01.html
以上のようなことから、賃貸物件におけるペット可物件の数も伸び悩む傾向が強いということはお分かりいただけるかと思いますが、実際に自身が経営する物件をペット可にするメリット、デメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
ペット可にするメリット
募集する入居者の幅が広がる
トラブルは多いという現実はあるものの、逆に需要があるという事実もあります。
常識的な入居者さえ見つける事ができれば、一般の入居者の他にもペットを飼っている事を理由に入居を断られた人にも目を止めてもらえますので、空き室の解消に一翼担う事は間違いありません。
長く入居してもらえる可能性が高い
ペットブームが始まってから微笑ましいニュースもあれば、様々なトラブルもこれまでに多く報道されてきましたし、一般的な認識として「ペットを飼う入居者にはモラルが必要」という認識も随分と広まったのではないでしょうか。
仮にそうでなかったとしても、ペットを飼う入居者も物件探しに苦労する事を承知していますから、比較的長い期間入居してくれるというメリットがあります。
賃料や敷金の交渉がオーナー有利
有利とは申し上げましたが、何もペット飼育を逆手にとって賃料をアップしようというお話ではありません。
ペット飼育をしている入居者は、ペットが傷つけてしまった内装の修繕が必要になる事は覚悟していますし、ペット可能物件が少ない以上、よほどのことがなければ賃料の減額交渉の話を出す事もあまりありません。
入居者を広く募集できると言うメリットと同様に、収益を上げるという点においてはペット不可よりも有利だと言えるのかもしれません。
ペット可にするデメリット
他の入居者が嫌がる可能性
ペット可にする事はメリットばかりでなく、世の中色々な方がいらっしゃいますので、万一ペット嫌いの入居者が既に入居中だった場合や、少々神経質な方が入居中だった場合は注意が必要です。
それこそ、ペット飼育による入居者トラブルに繋がりかねませんので、空き室を埋めるためだけに安易にペット可にしてしまうと、現在の入居者が離れてしまう可能性があります。
汚損、破損への対応が必要になる
先ほど、原状回復や敷金については法改正やガイドライン改訂があったとは申し上げましたが、ペットを飼育した後の匂いは少し室内を清掃したくらいではなかなか取れませんし、共有部に糞や尿の放置があった場合は費用をかけて清掃をしなければいけません。
いくらペットに関する取り決めを行っても、それを全ての入居者が守るとは限りませんので、いざという時は管理力が問われる事となります。
費用がかかる
上記の汚損、破損への対応でも申し上げましたが、ペットによって汚損された箇所などがあれば費用をかけて清掃、修繕を行う必要があります。
また、ニオイについても同様に、一度染み付いたニオイはなかなか消える事はありませんので、一度ペット可物件にしたら、リフォームでも行わない限りは簡単に「ペット不可」の物件に戻す事はできないと考えた方が良いでしょう。
ペット可物件は現状の管理にも将来の管理にも費用が嵩む可能性があるため、十分に検討する必要があるのです。
ペット飼育可賃貸物件のまとめ
1990年代には既に15歳未満の子供の数よりペットの数の方が多くなったと言われましたが、未だその現象は続いています。
今後も、少子化の問題が改装されない限りはそれは続くでしょうし、むしろ単身者や核家族世帯のペット飼育の割合は増えるであろうと考えられます。
更には賃貸物件の供給過多なんて言われたりする現状もありますから、ペット可物件は不動産オーナー様にとっては空き室対策には有効な手段になっていくでしょう。
最近では、敢えてペット飼育を前提としたマンションやアパートが建設されることも多くなりましたから、現在既に不動産経営をされているオーナー様も、ペット可とするための事前の対策やトラブルシューティングを作成しておくことで、有益な不動産経営に役立てる事ができるでしょう。