登記簿謄本の意味と役割を解説。不動産取引には必須!
不動産取引において、様々な場面で登場する「登記簿謄本」。
法務局に行けば、収入印紙を購入して申請する事で誰でも閲覧できるもので、この登記簿謄本があるからこそ不動産市場というものが安定して成り立っているとも言えるでしょう。
不動産オーナー様であれば、ほとんどの方が一度は見た事はあるかと思いますが、不動産に関わる事が無ければ登記簿謄本を手にとってみる機会は少ないでしょう。
今回は、そんな登記簿謄本についておさらいする意味も含め、解説をさせていただきたいと思います。
目次
登記簿謄本は何故必要なの?
以前に別の記事にて、「登録免許税」という不動産登記に関する税金ついて解説させていただきました。
また、所有者不明土地についての記事では、「実は不動産登記は義務ではない」との解説もさせていただきましたが、では何故、不動産の登記簿謄本というものが存在するのでしょうか。
まず、不動産登記をする目的には「所有権を主張するため」という主な理由が挙げられます。
法的にも登記されている不動産には所有権が認められると定められており、事実、民法上で下記のように定められています。
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第177条
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法、その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
引用:e-Gov「民法」
つまり、法的に「これは私の土地です!」と堂々と主張するためには、登記をしておかなければ、いくら高額な取引を行って契約したところで、所有権の主張は絵に描いた餅にしかならないのです。
ただ、上記にも申し上げましたとおり、登記は義務ではなく個人の判断に任されているものであるため、「使えもしない土地なのに、所有しているだけで固定資産税が徴収されるなんて…。」という理由で、所有権を放置するかのように登記されていない不動産というものも存在します。
これが所有者不明土地の生まれる要因の一つだと言われています。
さて、登記の大事さはご理解いただけたかと思いますが、実は不動産登記をするのは他にも理由があります。
登記簿謄本は不動産取引の潤滑剤
もし、閑静な住宅街で人気の土地を「100万円で売るよ」なんて言われたとしたら、世の中の人の多くは喜ばしい事だと必ず身を乗り出すでしょう。
実際にはこんな話あり得ませんが、重要なのは安さではなく、その土地がホントにその人の物かどうかです。
登記簿謄本には、所有権の主張を目的とするだけではなく、こういった不動産取引を安全、且つ円滑に進める目的も兼ねているのです。
そこで、不動産登記法にある以下の条文も確認しておきましょう。
(目的)
第一条 この法律は、不動産の表示及び不動産に関する権利を公示するための登記に関する制度について定めることにより、国民の権利の保全を図り、もって取引の安全と円滑に資することを目的とする。
引用:e-Gov「不動産登記法」
不動産登記をされているからこそ、その土地が売買取引の相手方のものであるという確実な判断が可能になり、安心して取引に臨むことができるのですね。
家族間、どんなに親しい間柄でも不動産登記は必須
では、「家族間で信頼できる取引だから、登記がなくても大丈夫」と言えるかどうかですが、どんなに親しい間柄であったとしても、不動産登記はしておくべきでしょう。
実際のところ、この不動産登記の仕組みを悪用して、実際の所有者ではない第三者が現金だけ騙し取るといった詐欺事件もこれまでにたくさんありましたので、例え家族間での不動産取引であったとしても必ず登記は行うべきなのです。
登記簿謄本の情報は個人情報保護法に反するのでは?
さて、筆者も経験のある事ですが、不動産取引を行っているとこんな事を聞かれることがあります。
「登記簿って私たちの住所やローンの借り入れ額が書いてあるんですよね?個人情報が洩れている事になりませんか?」
また、こんな質問もインターネット上では多く見かけます。
「個人情報が有るにもかかわらず、登記簿謄本は誰でも見れるのはなぜでしょうか?詳しい方教えてください。」
引用:yahoo知恵袋
確かに、登記謄本を確認してみると、今では口頭で話す事が避けられがちな所有者の住所や氏名、果てはその物件の過去の権利関係の履歴や住宅ローンの債務額まで記載されています。
しかも登記簿謄本は、印紙代さえ支払ってしまえば、その土地とは無関係の第三者でも閲覧が可能です。
本来であれば自分が負っている債務なんて人に知られたくないと思いますが、何故こんなにもセンシティヴな情報が堂々と公に閲覧できる仕組みになっているのでしょうか。
登記簿謄本と個人情報保護法
実は、この登記簿に記載された情報が個人情報保護法に反するかどうかは、複数の法令から判断していく必要があり少々難しくなりますが、極力分かりやすく解説させていただきます。
まず、一番に分かりやすい判断要素として、そもそも「個人情報保護法」はどのような法律であるか確認しましょう。
(利用目的の特定)
第15条
個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的をできる限り特定しなければならない。
(利用目的による制限)
第16条
個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。
引用:e-Gov「個人情報の保護に関する法律」
つまり、「個人情報取扱事業者は本人から同意を貰わないまま、個人情報を勝手に使ってはいけません。使うにしても、目的を限定的にしなさい」という事を言っています。
個人情報取扱事業者
ここで、疑問になるのが「個人情報取扱事業者」です。
この事業者というのは、本来であれば国の機関も含むのですが、この個人情報保護法により「国の機関」「地方公共団体」「独立行政法人等」は除外されています。
よって、法務局で個人情報を取り扱っている事は、個人情報保護法に反する事ではないという一つの結論を出す事ができます。
情報公開法
そして2つ目の判断要素となるのが「情報公開法」です。
情報公開法とは、国民に対して公正、且つ民主的な行政を目指すために作られた法令ですが、その中に以下のような条文があります。
(開示請求権)
第3条
何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長に対し、当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる。
第5条
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。
一 個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(中略)。
ただし、次に掲げる情報を除く。(中略)
ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報
引用:e-Gov「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」
つまり、行政が保有している情報は誰でも開示請求が可能ですと堂々と言っているわけですが、個人情報であっても、財産保護が必要であると認められた文書については開示をしなさいという事を言っています。
よって、これら2つの要素を考えた時、不動産の登記簿というのは誰でも閲覧が可能にする必要がある考えるのが自然で、上記までに申し上げた、「不動産取引を安全、且つ円滑にするため」という登記法の目的があるという事から考えても、「個人情報だから」という事だけを理由に、登記情報を閲覧できないようにすることは不可能と言えるでしょう。
不動産登記簿の意味まとめ
不動産登記簿の個人情報としての取り扱いについては、マンションデベロッパーが営業に利用するなどで問題となるケースがあるようですが、正式にはそれらを禁ずる法律があるわけではありません。
たとえ、行政機関であったとしても、個人情報を不正に取得して悪用することは処罰の対象となります。
とはいえ確かに、登記簿に記載されている事項は個人情報保護法に該当する内容で埋め尽くされていますが、国民の財産保護や不動産取引を円滑に進めるためには必要なものでもあります。
この二律背反的な関係性があるからこそトラブルも発生するのですが、登記簿の閲覧や利用は、それを請求する者の善意に任されていると言っても良いかもしれません。